這い回る悪魔 入鹿
動物と違って、植物は動かないことになっている。
もっとも、微生物の世界へいくと、動物と植物のちょうど中問にあるような、どっちっかずのものがあって、ある意味では動物の性質と植物の性質を兼ね備えていて、動き回るようなものもある。
しかし高等植物は、地面に根をはやし、枝葉をその上に茂らせて生きているので、めったに動き回るわけにはいかない。
そこに、例外なのが現われた。
入鹿は、学名マカエロセレウス・エルカ。
この植物は、カリフオルニア半島のマグダレナ島に原産する柱シャボテンである。
だいたいカリフオルニア半島というのはメキシコ領で、問にカリフォルニア湾をはさんで大陸と向かい合っている。
昔は大陸と地つづきだったのが、陥没して湾になったとみえ、植物の分布などに、大陸と一種の連関性があっておもしろい。
入鹿の不思議
入鹿は、マカエロセレウス属の柱シャボテンだが、おもしろいことに、これは直立して育たないで、いつも寝ころんでいる。
この植物は暖かい季節が生長期で、その生長期には、新しく生長した頂部を持ち上げて、ほぼ直立に近くなるが、冬の休眠期になると、柔らかくなって、オジギをして頭をたれ、長々とまた地面に寝そべってしまう。
こうして寝そべると、その茎の下面から根を伸ばしてその場に固定し、次の年にまた新しく生長した部分だけ頭を持ち上げる。
つまり、この植物は、肉質が非常に多汁で柔らかく、わずかに新しく生長した部分だけがやや堅いので、一時的に直立しても、すぐに倒れてしまうのである。
これだけなら、まだそんなに変わっているともいえないが、この植物は、古い部分の茎がだんだんと枯れてなくなってゆくので、生きている植物体は、結局毎年前進してゆくことになる。
実際、写真のように、マグダレナ島でこの入鹿が大群生している情景をながめると、見る限り荒涼たる砂礫地に、異様に巨大な毛虫の大群が、思い思いに頭をもたげてはい回っているような感じで、無気味なことこの上ないといわれている。
原産地ではこのシャボテンのことを、クリーピング・デビル(はい回る悪魔)と呼んでいるが、この白亜色の荒々しいトゲは、日光を強く反射して、銀白色に光るので、遠くからながめると、まるで、ウロコをさかだてたヘビか何かのようでもあり、「はい回る悪魔」という名は、この植物の感じをよく表現している。
花は、黄色で、直径十センチから十二セン
チ。十センチほどの長い花筒の上に開く。
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